当麻の春の無量光寺
              ー プロローグ・当麻 ー
                                撮影2005.3.12
 時宗の開祖、一遍上人ゆかりの当麻山無量光寺を訪ねました。本堂跡地の周囲には数種類もの椿の花が咲いていました。
 寺は河岸段丘面の高台にあり眺望のよいところです。高台にありながら宙水でしょうか境内にはひょうたん型をした池がありました。当麻は古くからの交通の要害地で当麻の宿では六斉市も開かれ賑わっていました。
 若狭の国、遠敷川の上流に鵜ノ瀬というところがあります。そこで毎年3月2日になると「お水送り」の神事が行なわれます。奈良東大寺二月堂前の「若狭井」に通じているのだといいます。鵜ノ瀬から上流150メートルの所には白石神社があり、その境内は一面の椿の群生地となっています。偶然か二月堂本尊、十一面観音像前に飾られる造花は椿でできています。
 3月12日の深夜に行なわれる、まつりのクライマックスは「若狭井」から水を汲む「お水取り」の行事、私はその日、無量光寺にたくさんの椿の花を見ました。椿の親しさを訪ねてみましょう。


「当麻の渡し」  お清掃をしたり、石仏をいつも気にかけているお婆さん。 割れた「庚申大神」の裏面




   
 明治はじめの無量光寺本堂
  「ザ・ファーイースト」より 
    
本堂は明治26年の大火で焼失、現在はその周りに椿が植えられ中央に宗祖一遍上人像が建立されています。
     
   
         参考
        
        「糊こぼし」別名を「良弁椿」と呼び、その椿を模った造花の花を二月堂に飾ります。
          この「お水取り」の行事が終わると寒かった奈良の町にもやがて春が訪れます。

              「お水取り」カラーブックス保育社より


   


       
     一遍上人が立てた杖がそのまま根づいた「逆さ木」といわれる「なぎの木」  妙法守護塔
                            更新 2007・5・17
       
    徳本上人 六字名号供養塔   裏面 五十二世 他阿上人  霊随上人 六字名号供養塔

      
     芭蕉句碑 世にさかる 花にもね佛(念仏) まうし鳬(もうしけり)   丈水句碑

  


   
   子の神坂                    一遍上人遺跡・花ヶ谷戸

   


    
  市場の集落内を流れる小川と洗場 (水源は花ヶ谷戸の一遍上人遺跡 )


  
     カゴノキ        天満宮
四回目の取材を終えて    
  「南無阿弥陀仏」と刻んだ徳本上人の六字名号塔の設置場所を訪ねて私は津久井中を歩きました。そして多くの名号塔に出会えましたが、その中に偶然か、もう一つの名号塔にも出会えました。なかでも印象的だったのは藤野の落合と云う集落で見た念仏塔でした。見たのは隣にグミの花が咲いていた頃で石塔は実に大きくズングリとした自然石でできていました。そこから更に奥まった陣馬山に上る山間にも「六字名号塔」がありました。その大きさは確か40センチ程で小さなものでしたが無量光寺の僧、霊随上人が建立したものでした。この名号塔も津久井のいたるところで見ることができました。布教の力とでもいうのでしょうか霊随上人や徳本上人の行動力には圧倒されてしまいます。そして霊随上人のもう一つの顔に俳句があります。名を南謨と呼び多くの門人たちがいました。ほう水追善句集、「枯野の露」には徳本上人のことを詠んだ「木食の居こなす庵や梅白し」と云う句が詠まれています。
 そうしたことから上人がいた無量光寺とはどんな寺なのか?また、寺を中心に発展して行く市場、そして宿の誕生など次から次へと興味がわいてまいりました。宿は相模川の氾濫原なのになで誕生したか。水害から身を守るために人々は、自然発生的に組合や講を組織して来たのではないか。そうすることで、お互いが協力し合いながら厳しい自然環境のなかを生きて来られたのではないか。現在でも宿の西側には「一番土手」「二番土手」、「三番土手」などと呼ぶ土手の跡や講中小屋が残っています。
 世界に世界遺産があるように当麻にも素晴らしい地域の文化遺産が残されています。一遍上人にまつわる遺跡と豊富な湧水地帯。そして広がる梨畑の中にやがて完成するであろう相模縦貫道に結ぶインターチェンジ。それは新しいようでもあるが、古くからの交通の要、当然のことかも知れません。
 当麻は、自然を始め歴史や文化を兼ね備えた歴史的景観を残す風土、そして、洪水の悲しみを乗り越え、たくましく生きてきた人々が暮らす町でもある。
 私は四度目の取材を終えそんなふうに考えてみました。    2007・7・7記
                
  
参考資料
  相模原市村落景観調査報告 当麻(TAIMA) 相模原市教育委員会 1988・3
  相模原市史 (全巻) 昭和40年11月発行
  相模原の歴史と文化 座間美都治著 発行 座間美都治先生著作集刊行会 昭和50年5月発行
  県北をいく 神奈川の陸の道・18の歴史を風景 財団法人横浜銀行産業文化財団 1988年3月発行
  相模野・相模路 真珠書院 大貫昭彦・岩崎保 昭和63年4月
  当麻山の歴史 発行所 当麻山無量光寺  著者 座間美都治 昭和39年9月発行
  一遍上人 −旅の思索者− 栗田勇著 新潮社 昭和52年9月発行
  日本の名僧 遊行の捨聖 一遍 今井雅晴編 吉川弘文館 2004・3月発行 
  日本の美術 NO56 一遍上人絵伝  宮次男編 至文堂  1971・1月発行
   一遍上人語録 大橋俊雄注 岩波文庫 1985・5 発行

  郷土相模原 第七号  「たいまそだち 柿沢篤太郎」 昭和52年10月発行  
  郷土相模原 第十五号 「大正時代 川に生きた人々 柿沢高一」 平成元年8月発行
  白雲悠々 著者 柿沢高一 発行 平成元年9月
  無量光寺文書 相模原市立博物館所蔵 相州当麻村川除御普請御入用帖等
  相模原市立図書館古文書室紀要(第8号) 編集相模原市立古文書室 昭和60年3月
  畑地かんがい ー相模野の開拓・相模原水田開発計画・相模原開発畑地かんがいー 金井利平
  相模原市市史ノート 第4号 相模原市市史編さん室 2007・3月
  ー神奈川県相模原市当麻における初午の稲荷祭祀ー 入江英弥      
  復刻版 「枯野の露」 八木ほう水追善句集 文政五年  昭和35年9月 発行はぐさ会


           相模原市・当麻の風土学 
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