双盤念仏(そうばんねんぶつ)
            当麻山に鉦の音が聞こゆる
                              作成 2008・10・26

 10月23日、私は無量光寺と所縁の深い当麻天満宮にいました。境内にお婆さんがいたので神社のことなどを伺っているうちに当麻山でこれから稚児行列が始まることを教わりました。今日は「一遍上人の開山忌」であることをすっかり忘れていたのです。寺の広い境内には芝居小屋やおでん・バナナ飴・焼き鳥・焼きそば・お好み焼屋などを沢山の屋台が並んでいました。
 ご参拝の人の中には肩に輪袈裟を掛け、黒いスーツや袴を召された多くのみなさまがおられました。しばらくしていると突然、鉦や太鼓がなり始め念仏が聞こえてきました。鉦は時に静かに強くなったり、早くなったり、ゆっくりになったり一定のリズムを保ちながら聞こえてきました。これがあの有名な「双盤念仏」か、と思いながら本堂の入口に腰かけ懐かしい鉦の音を聞かせて戴きました。


  
本堂に向かって左から「一番鉦」、「二番鉦」、「三番鉦」、「四番鉦」と続きます。太鼓は「一番鉦」の前の柱で向き合い太鼓が全体を指揮するような形で進行して行きます。

双盤念仏の日時
 双盤念仏を行うことを「双盤をハル」と云い「双盤講」によって行われています。
 昔から無量光寺の法要日には双盤をハッテいました。正月の元旦まいり・8月10日の施餓鬼・8月13日の新盆供養・10月の開山忌・12月31日の晦日まいりにハッテいたと云い、特に開山忌の日は10月22日から24日まで3日間ハッテ賑わったと云います。現在は23日のみハッテいます。そのほかショウゴウクウ(正・五・九)と云って正月・五月・九月に双盤をハッタと伝えられています

双盤念仏の構成
 双盤念仏は太鼓1基、鉦4基、半鐘1基、念仏衆数人で構成され、太鼓役は椅子に座って一番鉦役と向き合います。鉦役は本堂に向かって「一番鉦」から「四番鉦」まで4人で構成しています。鉦は高さが1メートルほどの高座の木枠に吊るして置き、鉦役はこの高座に小さい腰かけをあてて正座して打ちます。半鐘は現在、鉦と並んで吊るして打つがその場所が仏間東側の廊下にあるためお互いが見えない位置にあり奏でるのに相当な熟練を要しています。今回の演奏でも「双盤念仏」終了後、気づきませんでしたが「早い・・」と云うような声が演者から聞かれました。念仏衆は仏間の西側に座してこのうち一人が伏鉦を打ちます。

念仏の種類
講員が伝えている念仏 @ 平念仏(ひらねんぶつ)
               A 六字念仏(ろくじねんぶつ)
               B 六字詰念仏(ろくじづめねんぶつ)
               C 四遍返し念仏(しへんがえしねんぶつ)
               D 送り念仏(おくりねんぶつ)
               E 呼びかたのない念仏  

双盤をハル時の念仏  @ 平念仏(ひらねんぶつ)
               A 六字念仏(ろくじねんぶつ)
               D 送り念仏(おくりねんぶつ)で、BとCは唱えない。 

  
    
  太鼓               写真さがみはらの民俗芸能」より

双盤念仏の奏法「さがみはらの民俗芸能」の9ページをそのまま引用しました。
 4基の鉦は太鼓(テイコ)の順から1番鉦、2番鉦、3番鉦、4番鉦と称している。
 太鼓と鉦は強弱その他のほかいくつかの打ち方がある。始めは小さく、そしてだんだん大きな音に打ち、まただんだん小さい音に打つことを「たたきあげ、たたきおろし」という。鉦のたたき方には「生かす、殺す」がある。鉦を打ちはなすのを「生かす」といい、鉦のところで撞木
(しゅもく)を打ちとめるのを「殺す」といっている。また1番から4番の鉦までそろって打つときはどうしても打つタイミングがずれてそろわないので、本当に打つのは1番鉦だけとし、2番から4番鉦までは鉦をこするようにして本気では打たないようにする。
 また、太鼓のバチさばきはこの双盤念仏の中で1つの特徴的な技である。「バチ振り
(ばちふり)」とか「振りバチ(ふりばち)」といって、バチを肩につくくらいに振る。これはバチを指で軽く持ち、手首をすばやく返すようにして行うつもりで、遠くから見るとバチが回っているごとく見える。また、綾バチ(あやばち)といって、時にバチを左右にして太鼓を打つ。中島五三郎(当麻・明治44年生)氏も双盤講に入ったころは、この妙技あふれる太鼓をやりたいという気持ちが、念仏を唱えたいことよりも上であったという。
 全体的には太鼓が鉦をリードし、鉦の中では1番鉦の役割が大きい。
@最初に、招促太鼓といって太鼓の連打で開始がつげられ、太鼓役が「光明遍照十方世界念仏衆生摂取不捨」と唱え、双盤念仏が始まる。
A1番鉦、2番鉦が平念仏を唱える。平念仏の後半をハンザといい、鉦の合間に半鐘が入る。
B3番鉦、4番鉦、太鼓の順に六字念仏を唱える。
C送り念仏を唱え掛け念仏になる。掛け念仏は1番・2番鉦と3番・4番・太鼓で平念仏(鉦を生かす)と六字念仏(鉦を殺す)を16回唱える。
D七・五・三・三の玉入れ
(たまいれ)。玉入れとは鉦の連座の中でひときわ強く鉦を打つことをいう。最初に1番鉦が流し玉(ながしだま)といって3回玉を入れる。これは玉入れに入る前の心の準備ではないかという。流し玉が終わると1番鉦が7回、2番鉦が5回、3番・4番鉦がそれぞれ3回づつ順に玉を入れていく。この玉入れのときに太鼓が綾バチを行う。
E送り念仏を唱え、三三九
(サザンク)となる。三三九は4基の鉦と太鼓の奏打で、中でも太鼓の見せ所である。最後に太鼓と鉦とも一斉に打ちとめるのが大きなポイントである。
F送り念仏を唱え、太鼓と鉦のたたきあげ、たたきおろしが入り、ヤマミチと続く。

 近年、民俗芸能大会などの催しに出演を依頼されるようになった。しかし、出演時間が制限された、三三九で終わらせることが多く、その時は最後に六字詰念仏を3回唱えて終わりにするように構成している。


 2008年の稚児行列は2時ごろから降り始めた雨のために中止となりまいました。行列を待っていた子供たちは門のところで急いで記念撮影を済ませ本堂へ移動しました。そしてあらためて稚児行列が始まりました。奥の庫裏から本堂へ、行列は音楽講の人々に先導され、一遍さんがいる本堂に来ました。そして、長い長い開山忌の法要と子供たちの成長を願うお祈りが続きました。神妙にしていた子供たちもだんだんに退屈そうに、また我慢も限界に達しそうになって行きました。
 先ほどまで双盤念仏の1番鉦をたたいていた先導役のオジサンが突然「生きる」鉦を力強くたたきました。そうしたら一番前の子がビックリして跳ね上がってしまいました。実は私もビックリして眼がさめたのです。そうして「生きる」鉦が堂内を力強く鳴るたびに子供たちがピョンピョン跳ね上がるようになったのです。その人数がダンダン増えて遂には全員が跳ね上がるようになりました。お坊様もそこ光景を見てニッコリとしていました。その内、見かねて一人のお母さんが出てきて二番目の子供を注意しました。それで一時は収まったのですがまた、鉦の音に合わせてピョンピョンが始まりました。そうこうしているうちに、お祈りはお仕舞となりました。堂内は笑いであふれました。一遍さんも一緒にピョンピョンやりたかったかも知れません。楽しいひと時を過ごさせて戴きました。

    猿橋をわたりてみれば駒橋やおとりはねつつかけておくらん  他阿


    資料
     さがみはらの民俗芸能 第7号 編集・発行 相模原市民俗芸能保存協会 昭和60年3月発行

    ふるさとの文化財(民俗文化財篇)  神奈川県教育委員会 昭和58年2月発行
    神奈川県の民俗芸能案内 神奈川県教育委員会  昭和51年5月 発行   


       相模原市・当麻の風土 
       戻る