1 |
日若稽舊記。
聖武帝十六年甲申。
行基大士肇闢武蔵國高尾山。
手刻醫王像奉之。
名寺曰有喜。
爾後、荒廢、多歴年所 |
日若(ここ)に舊記を稽(かんが)ふるに
聖武帝の十六年(744)甲申、
行基大士、肇めて武蔵國高尾山を闢(ひら)き、
醫王像(薬師如来)を手刻して之を奉ず。
寺に名づけて有喜と曰(い)ひ。
爾後(じご)、荒廢、多く年所を歴たり |
稽(かんが)ふる
参考 稽古(ケイコ): 昔の書を読んで物の道理や故実を学ぶこと。学問。
聖武帝十六年:天平16年甲申(744) 闢く(ひら)
参考 開闢(開闢);信仰の地としての山を開き、
あるいは初めて寺院などをつくること。また、その人。開山。
爾後(じご):ある事があってからのち。そののち。それ以来。以後。副詞的にも用いる。
年所(ねんしょ);年数。年月。歳月 |
2 |
後圓融帝五年。震沙門俊源者。
不知何所人。
来游高尾。
以為名嶽也。
始立方丈。茅茨、以庇經像。
|
後圓融帝の五年(1375)
震沙門俊源なる者、
何処の人なるを知らず。
高尾に来游し以て名嶽となす。
始めて方丈を立て、茅茨、以て經像を庇(おほ)ふ。
|
震沙門俊源:高尾山中興の人。
方丈1 1辺が1丈(約3メートル)の正方形。1丈四方。また、その広さの部屋。
2禅寺で、住職の居室。寺の住持。
茅茨ぼうし):茅茨 チガヤとイバラ。また、それでふいた粗末な屋根や粗末な家。
庇(おほ)う:かばう・ 1 他から害を受けないように、助け守る。いたわり守る。
2 大事にしまっておく。 |
3 |
俊源受法於京醍醐俊盛法印。
遂迄于今。
累世継其法云。
相傳俊源勇猛精進。
能奉祷事。
其浴所在東澗中。
稱為霊泉。
嘗修十万枚護摩。
心疲假寝 |
俊源は法を京の醍醐俊盛法印に受け
遂に今に迄(いたるま)で
累世、其法を継ぐと云ふ。
相傳ふ、俊源は勇猛精進、
能(よ)く祷事を奉ずと。
その浴所は東澗(かん:渓流)中に在り、
称して霊泉となす。
嘗(かっ)て十万枚の護摩を修し、
心疲れ仮寝す。 |
于(ここにゆく)
能(よ)く:
祷事(とうじ・いのりごと): 示+壽の合字/変換不能
1 神や仏に願う。祈願する。 2 心から願っている。希望する。望む。
相傳ふ
澗(たにみず)
嘗(かって・なめる)
假(かり)
|
4 |
夢人面而て鴟喙。
冠蒼蛇。衣竺服。
背出焔火。腋張両翼。
擁劍跨白狐
謂之曰。
余為阿遮羅明王。
叔世多辟。諸魔寔繁
為徒。余
震雷馮将降伏之。
故現此竒變
|
夢に、人面にして鴟喙(しかい・トビの嘴)。
蒼蛇(だ)(へび)を冠り、竺(ぢく)服を衣(き)、
背に焔火を出し、腋(わき)には両翼を張り、
劍を擁し、白狐に跨(またが)るもの
之に謂ひて曰く、
余、阿遮羅(あしゃら)明王(遮羅明王)たり、
叔世(末の世)、辟多く、諸魔、寔(まこと)に繁し。
為にただ余、
震雷して馮(ひょう)してまさに之を降伏せしめんとす。
故に此の竒変を現す。 |
鴟(とび) 喙(くちばし)
竺(ぢく)服:天竺の服
擁(よう)劍(つるぎ)
辟(ヘキ・ヒャク):1 罪。重い刑罰。2 避ける。
馮(たのむ) 徒(かち・いたずらに)
諸魔(しょま):『首楞厳経』によれば、修道者が婬欲を断じないまま禅定を修すれば、すべてみな魔道におちるという
震雷(しんらい):震には雷鳴、轟き、振動の意味があり、
それが更にと重なることから、非常に激しい力の動き。
将(ショウ・まさに) せしめんとす:(〜しようとする)
竒変(きへん):奇怪な姿 |
5 |
是曰飯縄神。
女當(いん)祀。
且而欲自刻其像。
一夕異人来而曰。
我能之。
乃於廬山西窮谷巌石之間。
弗許人覘之。 |
是を飯縄神曰ふ。
女(汝)まさに(いん)祀(いんし)すべしと。
且(しばら)くして自ら其像を刻せんと欲し、
一夕、異人来りて曰く。
我、之を能くせんとす。
乃ち山西の窮谷巌石の間に廬(いほり)し、
人の之を覘(うかが)ふを許さず。 |
いん:示+西+土(変換不能)
いん:誠意を持って祀る、柴・犠牲を燃やして芳香を出して天を祀る
一夕(いっせき):1 ひと晩。一夜。2 ある晩。ある夜。
窮谷巌石(きゅうこく)
廬(いをり):小さく粗末な家。いおり。草庵。 |
6 |
七日始成。
其像則如所夢。
而威霊赫々。
見者毛起。
不得正視。
異人亦不知所去。
乃建祠安焉。 |
七日、始めて其像を成す。
則(すなわ)ち夢みし所の如く威霊赫々、
見る者、毛起し、
正視することを得ず。
異人また去る所を知らず。
乃(すなわ)ち祠(ほこら)を建ててここに安んず。 |
威霊(いれい):威力ある神霊。神威。また、天子の威光。
赫々(かくかく):1 赤赤と照り輝くさま。2 功名・声望などがりっぱで目立つさま
正視(せいし):1 正面からまっすぐに見ること。まともに見ること。直視。
2 正常な視力をもつ目。
焉(えん): 1 ようすを表す語に添える助字。状態を示す。
2 「ここに」の意を添える助字。 |
7 |
土人倚俊源祈禳
罔不得祉者。
異人之廬。
厥跡猶存焉
今也曰炊谷。
俊源既化。
二世曰源廣。三世曰源尊
四世曰智圓。五世曰慶圓。 |
土人、俊源の祈り禳(はら)ふ所に倚り、
祉(し)を得ざる者なし。
異人の廬(いほり)。
その跡猶存す。
今、炊谷といふなり。
俊源既に化し、
二世は源廣と曰び、三世は源尊と曰ひ、
四世は智圓と曰ひ、五世は慶圓と曰ひ、 |
倚(よ)
祉(し):神より授かる幸福
罔(しいる)
厥(その):1まがる。まげる。ぬかずく 2 その。それ。
猶(なお)
炊谷(かしきだに):客殿の脇を抜けた奥の空間、高尾山中興開山にまつわる聖地。
|
8 |
六世曰慶尊。七世曰源智。
八世曰源實。九世曰源惠。
十世曰堯秀。
奉法甚厚、
西徃醍醐。
師事堯圓僧正。
堯圓即俊盛十世法孫也。 |
六世は慶尊と曰ひ、七世は源智と曰ひ、
八世は源實と曰ひ、九世は源惠曰ひ、
十世は堯秀と曰ふ。
堯秀、法を奉ずること甚だ厚し。
西のかた醍醐に徃きて。
堯圓僧正に師事す。
堯圓は即ち俊盛十世の法孫なり。 |
醍醐(だいご):真言宗醍醐派の総本山醍醐寺・無量寿院
徃(ゆく・いく)
|
9 |
始見堯秀。
愛其深於敬神。
授以秘法諸書曁法器八。
其器各有銘。
乃受焉而旋。具鎮蔵以至今。
十一世曰祐清。十二世曰堯永。
十三世曰賢俊。十四世曰秀永。
十五世曰賢秀。 |
始め堯秀を見て、
其の敬神に深きを愛し、
授くるに以秘法の諸書曁(およ)び法器八を以てす。
其器各々、銘あり。
のちこれを受けて旋(めぐ)り具に鎮蔵して以て今に至る。
十一世は祐清と曰ひ、十二世は堯永と曰ひ、
十三世は賢俊と曰ひ。十四世は秀永と曰ひ、
十五世は賢秀と曰ひ、 |
敬神
法器八
旋(めぐ)り具
鎮蔵
焉(いずくんぞ)
|
10 |
十六世曰秀憲。
即今刹主也。
奕世相承。纂修徳業。
□俊源主。源惠籍于紀高野。
堯秀之後
籍于秋長谷若京智積。 |
十六世は秀憲と曰ふ、
即ち今の刹主なり。
奕世相承け徳業を纂修す。
□俊源主より源惠まで紀の高野に籍し、
堯秀の後、
秋の長谷(長谷寺)若しくは京の智積(智積院)に籍す。 |
刹主():
奕世():
纂修(さんしゅう): 材料を集めて、書物を編集すること。編纂。
□ したがう 変換不能
于(ここにゆく)
秋の長谷():
京の智積(): |
11 |
其祀飯繩神、
亦始於俊源。盛於源惠主。
鞭笞其神。英以尚焉。
堯秀以還。唯承守醍醐之法
與尊崇醫王而巳也。
雖傳飯繩之法。
不敢宿其業。 |
その飯繩神を祀る、
また俊源に始り、源惠主に盛んなり。
その神に鞭笞し以て尚(くは)ふるなし。
堯秀以還。らだ承けて醍醐の法を守り
ともに醫王を尊崇するのみ。
飯繩の法を傳ふと雖も
敢てその業に宿(とど)めず。 |
□ (革+更 ゴウ) 変換不能
以還(このかた) 鞭笞(べんち):むち。むちで打つこと。
醫王(いおう)
1仏または菩薩(ぼさつ)。衆生(しゆじよう)の心の病をいやして悟りに導く者の意。
2 薬師如来(やくしによらい)の別名。
雖(いえど)も 敢(あえ)て
業(ごう):身・口(く)・意が行う善悪の行為。特に悪業。また、前世の悪行の報い。 |
12 |
歳時祭以其物。
亦敬而遠之
然而威霊不抵伏
日益新矣。
故自東都公卿大夫士庶
及隣國民人不愛玉帛銭幣。
來請大命者。
且暮、相属於塗。
今為隆也。
維嶽東距東都城百五十里。 |
歳時、祭るに其物を以てし。
また敬して之に而遠ざかる。
然り而して威霊抵伏(しふく)せず、
日に益々新なり。
故に東都の公卿大夫士庶より
隣國民人に及ぶまで玉帛銭幣を愛(おし)まず。
來りて大命を請ふ者、
且暮、相ひ塗に属し、
今を隆となす。
維の嶽、東のかた東都城を距(さ)る。百五十里、 |
敬(けい)し: 参考【敬して遠ざける】
〔「論語雍也」による。孔子が、鬼神は遠くからうやまうもので、なれなれしく近付くものではないと言ったことから〕 うやまって近寄らないふりをして、実は嫌い避ける。敬遠する。
威霊(いれい):威力ある神霊。神威。また、天子の威光。
不抵伏(しふく):(とどまりかくれる)
注 隣 内閣本は「こざとへん」が右側
玉帛銭幣(玉やきぬなどの贈り物)
且暮(): 塗(と):1 ぬる。2 泥。泥にまみれる。3 道路。
維(い):1 大綱。国家の大本。2 つな。糸すじ。3 つなぎとめる。4 すみ。
5 文のリズムを整え強める助字。これ。
|
13 |
西連嶺甲斐。
南接壌相模。
盤根所拠。亘七十里。
乃陟其嶺。
□(ふ)而□(み)之。
常毛房総諸山
累塊積蘇焉。
峰元七十餘。
草木蒙籠
吐納雲霧。
峰下則谿叡争流。
□々東走落合川。 |
西のかた嶺を甲斐に連ね、
南は壌(土)を相模に接し、
盤根、拠る所七十里亘る。
乃ち其嶺に陟(のぼ)り、
□(ふ)して之を□(み)れば、
常、毛、房、総の諸山
累塊(るいかい)、積蘇のごとし
峰すべて七十余、
草木、蒙籠
雲霧を吐納す。
峰下は則ち谿叡、争ひ流れ
□々として落合川、東走す。 |
盤根(ばんこん):雑木、特にもみじやぶな、姫しゃらなど根張りを見所とする
樹種において、上根が癒着してひとかたまりになった状態を盤と言う。
乃(すなわ)ち 陟(のぼ)り 拠(よ)る
□(ふ) (人+府) 変換不能 注 内閣本あるが 雄山閣本記載なし
□(み)れば (目+示) 変換不能
累塊(るいかい):
積蘇():たきぎを積む
蒙籠():茂っている
吐納(とのう):中国の道教における修行法の一つ。
体内の古い気を吐き,体外の新しい気を取り入れる呼吸法のことである。
谿叡( ):
□々(とうとう):雨の降るさま (雨+言) 変換不能 |
14 |
其山水之美。
難得而□縷也。
南而醫王宮掲焉。
刹那殿護摩堂夾之。
飯繩祠在其西北隅。 |
その山水の美、
得て□(ら)縷し難し。
南して醫王宮掲ぐ。
刹那殿、護摩堂これを夾(はさ)む。
飯繩祠はその西北隅に在り。 |
□(ら)縷(くわしい)
注 ら (爾+見)の合字 変換不能 雄山閣本は 覯
刹那(せつな):きわめて短い時間。瞬間。
護摩(ごま):密教の秘法。
不動明王などを安置し、護摩壇で護摩木をもやしながら祈?(きとう)する。 |
15 |
右則薬王院。
々中白雲閣亦皆
衡閾けん崖。
啓扉於峻路。
至今刹主造飾諸堂宇。
倍敦於疇昔。
東峰有神祠。
|
右すれば薬王院あり。
院中白雲閣また皆、
けん崖衡閾(こうよく)し、
扉を峻路に啓く。
今の刹主に至り諸堂宇を造飾し、
倍すます疇昔(ちゅうせき)より敦し。
東峰有神祠。
|
けん崖(けんがい):がけ けん 変換不能
衡閾(こうよく):木をよこたえ、手すりとしたもの 注 雄山閣本は 衡國
峻路(しゅんろ):険しい道。険阻(けんそ)な坂道。険路。
けん こざとへん+兼の合字 変換不能
啓(ひら)く:啓発する。教え導く
疇昔(ちゅうせき):過去のある日。昔。また,昨日
倍(ばい):多くする。加える。それに同数・同量を足し加える。また、同じ数を何回か加える。
すます:(済ます) 1しとげる。し終える。完了する。
2 それでよいとしておく。それで間に合わせる。
敦(あつ)し:念入り。(情が)あつい。てあつくする |
16 |
中古駿州浅間之神
降于茲因奉其祀。
東南谷中有雨宝稜。
々上安空海大師
所爲雨寶童子像。
故得名焉。
嶽足有山王大宮二神祠
及安養寺。吉祥寺。實相院。
不動院。蓮華院。浄土院。 |
中古、駿州浅間の神、
茲(ここ)に降る。因りて其祀を奉ず。
東南の谷中に雨宝稜あり。
稜上に空海大師、
つくる所の雨寶童子像を安んず。
故に名を得たり。
嶽足に山王、大宮の二神祠
及び安養寺、吉祥寺、實相院、
不動院、蓮華院、浄土院あり。 |
駿州浅間の神
因(よ)りて:それだから。したがって。よって。
稜上():
雨宝稜():
雨寶童子(うほうどうじ):両部神道の神。右手に宝棒(ほうぼう)、左手に宝珠を持つ童子形の神像で表される。天照大神(あまてらすおおみかみ)が日向(ひゅうが)に下生(げしょう)したときの姿。また、大日如来の化現(けげん)した姿ともいう。
安(あ)んず:
嶽足():
|
17 |
又山中有霊禽宵鳴。
曰佛法僧。
其聲振乎林木。
而人靡見其形者。
名曰三寶鳥。 |
又山中に霊禽(れいきん)あり。
宵に鳴く。
佛法僧と曰ふ。
その聲、林木に振(ふる)ひ
人その形を見る者なし。
名づけ三宝鳥といふ。 |
霊禽(りょうきん):霊鳥。不思議な鳥
宵(よい):日が落ちてくらくなった時。よい。よる。
佛法僧(ぶっぽうそう):鳥名 「ブッポウソウ」と鳴くはコノハズク
乎 コ・か・や 主として状態をあらわす漢語につけて語調を強める助字。
振(ふる)う:揺り動かす。ふるわせる。
靡(なびく) 靡見(): 確認要 |
18 |
猷廟
始璽書賜香火地若干。
申之下命曰。
從今徃。
高尾刹主朝東都。
其賀朝廷即位。
當特拝帝鑑班
毎歳正月朝賀。
當持拝大廣班。永以為例 |
猷廟(三代将軍家光)、
始め璽書して香火の地、若干を賜ひ
之に申ね命を下して曰く、
今より以徃、
高尾刹主、東都に朝し、
それ朝廷即位を賀すべしと。。
まさに特に帝鑑班を拝す。
毎年正月、朝賀し
大廣班に拝し永く以て例となす。 |
璽書(じしょ):1 天子の印の押してある文書。親勅。
2 古代中国で、諸侯・大夫の封印の押してある文書。
香火(こうか):仏前で焼香をするための火。
申(かさ)ね: 徃(いく ゆく)
賀(が)す:祝う。祝福する。 當(まさに)
帝鑑
班を拝す
例(れい・たとえ):1 同じようなもののなかま。たぐい。
2.昔からのならわしで、典拠・標準とするに足るもの。しきたり。習慣。 |
19 |
憲廟時。
刹主秀永入東都。
請祠部之吏曰
昔者我山承朝命厚。
集衆僧。講習經論。
是為檀林
以越在巖険。
勞於薪水。 |
憲廟(五代将軍綱吉)の時、
刹主秀永、東都に入り
祠部の吏に請ひて曰く
昔は我山、朝命を承くること厚し。
衆僧を集めて經論を講習す。
是を檀林(学問所)となす。
越すに巖険に在るを以て、
薪水に労す。 |
憲廟
東都(とうと):江戸の雅称
吏(り):役人
請(こ)ひて:1 願い求めること。頼むこと。頼み。
2 してほしいと望むこと。所望(しょもう)すること。
我山(): 朝命(ちょうめい):朝廷の命令
檀林(だんりん):学問所 巖険():
薪水(しんすい):1 たきぎと水。 2 たきぎを拾い水をくむこと。煮炊きをすること。炊事。 |
20 |
四方之僧徒不□。
法壇久廢。
伏願賜命得復舊。
則秀永竭力法談。
以為衆僧之率。
祠部以聞。
教曰。可。 |
四方の僧徒□(いた)らず。
法壇、久しく廢す。
伏して願はくは命を賜ひ舊に復するを得ば
秀永、力を法談に竭(つく)し
以て衆僧の率(そつ)とならんと。
祠部以聞す。
教へて曰く可なりと。 |
□(いた) 変換不能
参考 壇法(だんぽう): 密教で修法(しゆほう)・儀式を行う際に壇を構える方法。
舊/旧(ふるい・いにしえ) 竭(つきる・つくす)
法談(ほうだん):仏法の教義や信仰のあり方を説いた話。説法。
衆僧(しゅうそう):多くの僧侶。衆徒。 率(そつ):ひきいる おおむね
祠部(しほう):古代の官職。神祇官の別称。
|
21 |
實元禄十五年也。
所隷干薬王院之寺。
凡二十刹。七刹在相模。
十三刹在武蔵。
其寺名別録。 |
實に元禄十五年(1702)なり。
薬王院に隷する所の寺。
すべて二十刹(寺)。七刹は相模にあり、
十三刹は武蔵にあり。
其の寺名は別に録す |
隷(れい)する:1 付き従う。配下となる。隷属する。 2 従わせる。支配する。
凡(すべて):
録(しる)す:記録する。記載・記帳してあとにとどめ残す。 |
22 |
寛延己巳歳。
刹主秀憲
與其上足弟子秀興相議。
刊石以貽永世。
石正猗乃誌其事。
繁之以銘。
其辭曰。 |
寛延己巳(二年)の歳。
刹主秀憲、
その上足弟子秀興と相議り、
石に刊し以て永世に貽す。
石正猗、乃ち其事を誌し。
之に繁するに銘(めい)を以てす。
其の辭に曰く。 |
刹主():
上足(じょうそく):高弟、弟子の中ですぐれた者。高弟。高足
相議(あいはか)り:
石に刊し():
貽(のこ)す:1 のこす。伝えのこす。2 おくる。あたえる。
誌(しる)し:書き記す。記録
繁(はん)する:1 草木がしげる。物事が盛んになる。たくさん増える。 |
23 |
天作高山。
行基攸荒。
柞抜□兌。有夷之行。
今此下民。
載被厥光。
不逢不若
山林大康。 皇矣中興。
於孚俊源。
于胥斯土。
来朝振旛。
率□水滸。
陟乃在巌。昭事醫王。 |
天、高山を作し。
行基、荒する攸(ところ・治る所)。
柞抜□兌(さくばついくたい)。夷の行あり。
今此に民を下す。
載(すなは)ちその光を被る。
不若(ふじゃく)に逢はず。
山林、太だ康し。皇(おおい)なり中興。
ああ俊源を孚し。
ここに斯土(このど)を胥(み)る。
来朝、旛(はた)を振る。
□水(案内川)の滸(ほとり)に率(したが)ひ。
陟れば乃ち巌あり。醫王に昭事し。 |
□ (木+或の合字)
柞抜□兌(さくばついくたい・刺ある樹を抜き払い、道を通じる)。
夷(えびす・えみし)
不若(ふじゃく):ばけもの
厥(それ・その)
于(ここに)
孚し(ふ)し;養い育てる
斯土(このど)を胥(み)る
□ (雨+言の合字) 変換不能
滸(ほとり):
陟(のぼ)れば :1高い所に歩いて上がる。2高い位につく 乃(すなわ)ち
昭事( ):
醫王(いおう):1 仏または菩薩ぼさつ。
衆生しゆじようの心の病をいやして悟りに導く者の意。
|
24 |
□宮維新。
懐柔百霊。及飯繩神。
維持法綱。
合應天人。
世々傳叙。
克嗣徽猷。
崇墓表刹。執事爰周。
西俯甲嶺。
南臨相流。
勒銘隆碣
式樹神丘。
寛延三己巳秋八月
筑波 石正猗撰
東都 森穉圭書
刹主権大僧都 秀憲 立石 |
□宮(ひききゅう・御霊屋)維(こ)れ新なり。
百霊を懐柔し。飯繩神に及ぶ。
法綱を維持し。
まさに天人に応ずべし。
世々伝叙。
徽猷(きゆう・よきはかりごと)を嗣ぐ。
崇墓表刹。執事爰に周し。
西、甲嶺に俯し。
南、相流を臨(のぞ)む。
銘を隆碣に勒し。
式(もつ)て神丘に樹つ。
寛延(1750)三己巳秋八月
筑波 石正猗撰
東都 森穉圭書
刹主権大僧都 秀憲 立石 |
□(門+必) 合字 変換不能 注 雄山閣本は (門+心)
百霊()
懐柔(かいじゅう):うまく手なずけ従わせること。抱き込むこと。
法綱():
伝叙() 叙(のべる)
執事(しつじ):身分の高い人の家や社寺などで、家事や事務を監督し執行する職の人。
甲嶺():甲州の山々
相流():相模川
臨(のぞむ)
隆碣
勒(ろく)し:1 整える。 2 きざむ。ほりつける。書きしるす。
樹つ(た)つ:1木をうえる。 2新しくうちたてる。樹立する。
寛延(1750)三己巳 干支からでは2年となる 確認済
石正猗(石嶋仲縁):江戸時代中期の漢学者
森穉圭:書家、他に「清滝開創の碑」宝暦五年(1755)、不動堂 石柱 未確認 |