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久し振りに東京へ出る。
新潮社で加藤さんに会ふ。詩の稿料を六円戴く。
いつも目をつぶって通る、神楽坂も今日は素的に楽しい街になって、店の一ツ一ツを覗いて通る。
隣人とか
肉親とか
恋人とか
それが何であらう
生活の中の食ふと云う事が満足でなかったら
描いた愛らしい花はしぼんでしまふ
快活に働きたいと思っても
悪口雑言の中に
私はいじらしい程小さくしゃがんでいる。
両手を高くさしあげてもみるが
こんなにも可愛い女を裏切って行く人間ばかりなのか
いつまでも人形を抱いて沈黙ってゐる私ではない
お腹がすいても
職がなくっても
ウオオ! と叫んではならないんですよ
幸福な方が眉をおひそめになる。
血をふいて悶死したって
ビクともする大地ではないんですよ
陳列箱に
ふかしたてのパンがあるが
私の知らない世間は何とまあ
ピアノのやうに軽やかに美しいのでせう。
そこで始めて
神樣コンチクショウと吐鳴りたくなります。
長い電車に押されると、又何の慰めもない家へ帰へらなければならない。
詩を書く事がたった一つのよき慰め。
夜、飯田さんとたい子さんが唄ひながら遊びに来る。
俺んとこの
あの美しい
ケッコ ケッコ鳴くのが
ほしいんだらう……。
壺井さんのとこで、豆御飯をもらふ。
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久し振りに東京へ出て行った。新潮社で加藤武雄さんに会う。文章倶楽部の詩の稿料を六円戴く。いつも目をつぶって通る神楽坂も、今日は素敵に楽しい街になって、店の一ツ一ツを私は愉しみに覗いて通った。
隣人とか
肉親とか
恋人とか
それが何であらう
生活の中の食ふと云う事が満足でなかったら
描いた愛らしい花はしぼんでしまふ
快活に働きたいと思っても
悪口雑言の中に
私はいじらしい程小さくしゃがんでいる。
両手を高くさしあげてもみるが
こんなにも可愛い女を裏切って行く人間ばかりなのか
いつまでも人形を抱いて沈黙ってゐる私ではない
お腹がすいても
職がなくっても
ウオオ! と叫んではならないんですよ
幸福な方が眉をおひそめになる。
血をふいて悶死したって
ビクともする大地ではないんですよ
陳列箱に
ふかしたてのパンがあるが
私の知らない世間は何とまあ
ピアノのやうに軽やかに美しいのでせう。
そこで始めて
神樣コンチクショウと吐鳴りたくなります。
長いあいだ電車にゆられていると私は又何の慰めもない家へ帰らなければならないのがつまらなくなってきた。詩を書く事がたった一つのよき慰めなり。
夜、飯田さんとたい子さんが唄いながら遊びに見えた。
俺んとこの
あの美しい
ケッコ ケッコ鳴くのが
ほしんだろう……。
二人はそんな唄をうたっている。 壺井さんのとこで、青い豆御飯を貰った。
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