木喰上人の歌が聞こえる     mokujikijyounin-uta.html pid/983013  
    柳宗悦編「木喰上人和歌選集 」より (掲載全) 発行 大正15年1月25日
管理No 出典元 和歌/俳句 注釈 作成年月日 作成場所
1 かたみとも おもふ心の ふでのあと のちの世までの しるしなりけり
2 木喰の かたみのふでの おもかげを 心にかけよ このよのちのよ 享和二戌作
3 浮・青 木喰の けさや衣は やぶれても まだ本願は やぶれざりけり 91歳作
4 山ずみの 衣やけさは やぶれても わが本願は やぶれざりけり
5 木喰の 唯本願を うそにせば うその中より 出る本願
6 佛法は よきもあしきも へだてなし わが本願に もらすものなし 寛政11年作。石見國美濃部郡都茂村金谷正福寺(現存せず)にて刻みし大日如来光背裡に記せる一種。「よきもあしきも」、善人も悪人も。終わりのところ源詞には「もらすのもなし」
 現在所在不明か「木食の旅 P256」に記載なし 
 また作成年は寛政10年4月 11年は誤記 
行方等検討を要す 2022・6・17 保坂
7 心願の 心の月を ながむれば 又まん月の 月を見るかな
8 身をすつる 身はなきものと 思ふ身は 天一自在 うたがひもなし 寛政8年頃
9 世をすてゝ 世にすてられて ほっしんも 佛法僧の 光なりけり 
10 身をすてゝ 又身をすてよ 身をすてよ すてたるわがみ うかむせもなく
11 身を捨て うかむ瀬もなく おれにによ さひどの道に かなわぬはなし
12 みをすてゝ 口を清めて おれににて ねぶつ衣に ものをのこすな 
13 木喰も 世にすてられて 身をすつる みらひおもへば なむあみだ佛 文化2年、88歳
14 佛法へ きずをつくるは よけれども ほふてきなれば 一も二もなし
15 佛法の 綱にとりつく みなひとは 此世後の世 うごかざりけり
16 佛法は ろせんもいらぬ のりのみち 佛(ぶつ)もしゃくしも たった一船
17 木喰の 心のうちを たづぬれば 阿字観ならで たのしきはなし 阿字の歌
18 法身の 心のかたち ながむれば さながら 阿字の かたち成けり 阿字の歌
19 きやう〔く〕を 見るみなもとを 尋ぬれば 一字のほかに 有とおもはじ 阿字の歌
20 木喰は あじくわんならで なにやらん 一つく一つくは 一字なりけり 阿字の歌 寛政13年末 四國堂奉納額裏
21 阿字をみる 阿字の心を ながむれば さながら阿字の 姿なりけり 阿字の歌
22 ありがたや あまねくてらす 五だひぐわん あじ十方は なむあみだ佛 阿字の歌
23 阿字をみる 人の心の 光りかな 阿字をおそるゝ 身こそたのもし 阿字の歌
24 日月の 心の光り みる人は 一見阿字の 心なりけり 阿字の歌
25 ありがたや あじ十方の 中にすむ あじの衆生も なむあみだ佛 阿字の歌 享和4年 南無阿弥陀仏軸の「阿」の歌
26 木喰の 鼠衣に つゝみをく 阿字の一字ぞ あらはれにけり 阿字の歌
27 阿字をみる 阿字に阿字ある 阿字なれば しをみそなしに くふかひの阿字 阿字の歌
28 なむあみだ 妙法れんげに のりたくば しをみそなしに くふかひのあじ 阿字の歌 寛政12年頃
29 木喰の しおみそなしに くふかひの あじの一字の修行なりけり 阿字の歌 寛政12年頃
30 真言を 心にかくる 皆人は くる世くる世は 福徳自在
31 真言も 南無阿弥陀阿佛も ねんずれば 人のしらざる 供養なりけり
32 ありがたや 六じの明ぞ あらはれて 心もすゞし 自在なりけり
33 この九字を 心にかくる 皆人の さむしきみちの つれのいるべき
34 たゞたのめ たとへわが身は しずめども 九品浄土は 願ひなりけり 佐渡時代・九品浄土
35 面白や かすみに見ゆる 白蓮華 のりの道引き みだの浄土へ 佐渡時代
36 佛法は よしもあしきも 一と船に のりおくれても 頼む身なれば 寛政9年末 長州願行寺
37 念佛は なあにがどうやら しらねども むかしもいまも すたらさりけり 寛政8年頃
38 度衆生は 有情無情も ぜんあくも 唯一念の さんじ往生 享和3年
39 本願は 三世浄妙 自在心 悟る心は 三字成佛
40 生延て 南無阿弥陀佛の 口ぐせは さながらみだの こゝろなりけり ・ゞ
41 ながゝれと 思ふ命を たのしみに なみあぶだぶを ねてもおきても
42 とふとさに われをわすれて なむあみだ 人もしらざる くよふなりけり
43 たひせつに 心にかくる なむあみだ みだ本願の ゑかふなりけり
44 木喰の おもかげみれば なむあみだ くるももどるも なむあみだ佛 寛政9年頃
45 をもしろや おもかげみれば なむあみだ おく百萬べん なむあみだ佛
46 をもしろや ねてもおきても なむあみだ 佛法僧の 浄土なりけり
47 あく人の くちよりいづる なむあみだ あほふなやつと 人はゆふらん
48 ほとけとも おにともじやとも わからねど なにゝならふと なむあみだ佛
49 よの中は どこもかしこも なむあみだ よく〔く〕みれば みだの本願
50 みだ〔く〕と 思ふてみれば みつなみだ 行くももどるも みだの本願
51 いつまでも おると思ふて ゆだんすな ゆくももどるも なむあみだ佛
52 みな人の 心にたもつ なむあみだ みだの修行の 心なりけり
53 みだ〔く〕と 思ふわが身も みだなれば みだもみだぶつ なむあみだ佛 91歳作
54 四國どふ ぼだいのみちは とふくとも ちか道みれば なむあみだ佛 享和二酉十一月晦日 84歳作 丸畑岩松正吉蔵 No68 
55 佛法は しるしもしらぬも 一と船に のりおくれても なむあみだ佛 87歳作
56 法身の 道をとふりて なあがむれば なみだの中に なむあみだ佛
57 南無阿弥陀 ひもじくもなし 年の暮 又くる春も くろふ念佛
58 木喰の かたみのふでの おもかげを よく〔く〕みても 南無阿弥陀佛
59 木喰の 心ばかりのかたみかな 南無阿弥陀ぶを かへす〔ぐ〕も
60 懺悔 みな人の 心ごゝころを ざんげせよ 神も佛も いさみまします 享和2年
61 懺悔 ざんげせば 心のつみは きへうせて ぼさつも をなじ心なりけり 享和2年
62 しゅくごうの ごうのさらしは しゃばにきて さとりて見れば たれをうらみん
63 平澤や 深き願は なかれても また宿ごうの つみはながれじ
64 皆人は 慾あくがうに ひかされて 地ごくを願ふ しゃばの有さま
65 あくごふの ごふのはかりに かけられて つみのおもさに かなわざりけり 
66 じうざいを しゃばにきてみて ぬぎもせず またきかさねて 行ぞかなしき
67 地ごくがき ちく生道は のがれても むけんぢごくは のかれざりけり
68 よくどふに かぎりがあれば よけれども 二一天作 そんしやうぼたひ
69 六道の しやばによばれて 生れきて 又よくあくを まねく地ごくぞ
70 因縁に 引道さるゝ よの中の 心ごゝろを みるにつけても
71 ゆめの世を ゆめでくらすな ゆめさめて いままくたねは のちの世のため
72 皆人の 心にさきし 白蓮花 花はちりても たねはのこらむ
73 木喰の すゝめの種を まきおかば 大さく人と 人はゆふらん
74 いんゑんが 皆道引や ぜんとあく 前の世にまく たねと思へば
75 のちの世の たねをまきおく 皆人の 心はすぐに ぼさつなりけり
76 静謐(せいひつ)や きよくもきよき 天かした しずめしずまる 天下泰平
 静謐(せいひつ) @ 世の中がおだやかに治まること。また、そのさま。  A 静かで、落ち着いていること。また、そのさま。
以下五種皆和順泰平を歌へる句。上人作佛體裏にも屡々(しばしば)「天下和順」、「安穏」、「安楽」等の字句が讀まれる。
 「きよくもきよき」は「清くも清き」か「鎮め鎮まる」に続く。 2022・6・17 保坂
77 静謐(せいひつ)や しすめしずまる あめかした 日月清明 國土安穏 89歳作
78 四國どふ 二世あんらくは なにやらん 天下泰平 國土安穏 寛政13年末 四國堂奉納額歌
79 國々へ 申納る 念佛の 正みは こゝに天下泰平
80 念佛の くらい残りを はき集め つかねて見れば 天下泰平
81 佛法を 心にかけし 時鳥 かすかのこゑを しとふ心ぞ
82 南無阿弥陀 かけてぞたのめ 時鳥 しやうし偏は 地ごく極らく
83 木喰の 心がなくや 時鳥 おなじ姿と おもふばかりに
84 高き家も 心にかけよ ほとゝぎす 雲井の月は 下に見てつゝ
85 花を見る 人の心は 八重櫻 一重さくらを たずねても見よ
86 おく山に 年月しらで くらせども あをきをみれば 春のころかな
87 木喰も ゆめのよあけの 明月に みの入相の かねをきく哉
88 風ふかば 心のくもを ふきはらひ いつもすゞしき 十五夜の月
89 嵐たち うしほのくもを ふきはらし あらはれ出る 月の丸さよ
90 あまみつる 自在の中の 満月も あらはれ出る 信の徳かな
91 ふりきたる あめ風あられ くもはれし 又まん月の 月を見る哉
92 すみやかに 心もすゞし あきの月 じやうまん月の 心なりけり
93 すゞしさよ 月月月を なかむれば いつもすゞしき 十五夜の月
94 やみのよを やみ〔く〕やみと 思へども 十六文で 月よなりけり
95 ふたゝびと 思ふ心を くふうせば 又まん月の 心なりけり
96 るりの玉 みればみるほど まん丸に おれが心も にたりやつたり
97 みな人の 心ごゝろを 丸ばたけ かど〔く〕あれば ころげざりけり 享和2年作・丸畑
98 溝中の 心もこゝに 丸畑 十三ぶつの 心なりけり 享和2年作・丸畑
99 みな人の 心をまるく まん丸に どこもかしこも まるくまん丸 享和2年作・丸畑
100 まる〔く〕と まるめ〔く〕よ わが心 まん丸丸く 丸くまん丸
101 唯心 心の月を まん丸に いつもすゞしき 十五夜の月
102 唯心 見ゑぬ心を 見るひとは さとりのなかの さとりなりけり
103 皆人の すがたかたちは みゆれども 心のすがた 見る人もなし
104 長久を祈る心は 何ならん こゝろをいのれ いつも長久
105 日月の 心の神の あまてらば いのる心も おなし日月 佐渡時代
106 日月の 心の神の 心こそ あまねくその身 ぼさつ成けり
107 むかしより 心かわらぬ 日月の 心をみれば おなじ日月
108 三界の 心の姿 ながむれば 皆身の罪も ちりぬるをわか
109 座ぜんして みだめにとへば 心なり 心をさとる 心なりけり
110 誰心 よく〔く〕みても 唯心 心の外へ 月もさゝねば
111 一心を つくしきつての あとをみよ 衆生と佛 わからざりけり
112 六道を つくしてみれば なにやらむ 佛も鬼も 心なりけり
113 わが心 にごせばにごる すめばすむ すむもにごるも 心なりけり
114 六道は 心の内と おもふべし かへす〔ぐ〕も じひとぜんこん
115 世の中は 心ごゝろの 心かな たりぬ心も 心なりけり
116 人は誰 じゆふ自在の わが心 ぜんあくともに 悟れ人々
117 度衆生は 心の水に にごり水 ならべてみれば おなじ水水
118 闇の夜に 心もしれぬ 川に来て こすもこさぬも こゝろ成りけり
119 皆人の 四百四病は なにやらん みな身の心 とゞかざりけり
120 はづかしや はらのたつのを かんにんは 修行の道の ひみつなりけり
121 りにまけて ひにもおちると 思ふべし 誰かんにんの たびじなりけり
122 長たびや 心の鬼は せむるとも たゞかんにんが ろせんなりけり 
123 長たびや 修行の道は かはるとも たゞかんにんが ろせんなりけり
124 堪忍の 二字は則ち 父と母 心のうちに 常がけにせよ
125 かたみとも 思ふ心の ふでのあと 心にかけよ 堪忍の二字
126 木喰の 衆生さいどは なにやらむ 誰かんにんが 修行なりけり 88歳作
127 生木にも 心をかけて ねがひなば 二世安楽の たそくなるらん 87歳作 太郎丸梨木観音
128 いきゝにも 心をかけて 頼みくる たのむ人こそ むなしかるまじ 88歳作 米山村大泉寺銀杏立木子安地蔵
129 佛法に こりかたまるも いらぬもの みだめにきけば うそのかたまり
130 念佛は 眞言阿字の ふうみなり ひげだいもくは にてもやいても
131 ざぜんして なにを悟るか しらねども 心の姿に みつけざりけり
132 念佛に こゑをからせど おともなし みだとしゃかとは ひるねなりけり
133 けさ衣 ひかりかゞやく だいおしやう はだかになれば ひからざりけり
134 われ足りず 心もたりず 身もたりず たりぬ〔く〕も りやくなりけり
135 度衆生も すゝめすゝむる せんとあく わからぬ人も 佛なるべし
136 みにかへて 人の身を見よ わがみなり みればみるほど みだめなりけり
137 六道の 中にまじわる 皆人は みな身のうへと 悟らざりけり
138 さゝわりも さのみさわりと 思わねど 悟りてみれば さゝわりもなし
139 船いかだ 悟りのきしに つきたひと おもふばかりの 心なりけり
140 唯心 大慈大悲に ちかはせば 現世未来は すゞしかりけり
141 信心の 人のすがたを ながむらば さなからうその すかたなりけり
142 ぜんあくの よきもあしきも まがりなり よけてとふれは さゝわりもなし
143 ての内は むまふのものゝ 菩提心 此世のちのよ すゞしかりけり
144 青・心 ものかゝば かゝぬふりこそ ものかきよ かくふりすれば はじのかきやく
145 目とみゝと 口はぼたひを まよはする 庚申とうを みるに付ても 佐渡時代
146 申づくし 見申きか申 かのゑ申 いは申人は 庚かうしん
147 天等の 信との道を わすれずば 一も二もなし すぐにそく心 89歳作 薬師如来画像の蓮台下三個の菩提葉中に記せし
148 國々の おきておふほう 御せいさつ おそれぬ人は あやうかりけり 89歳作 薬師如来画像の蓮台下三個の菩提葉中に記せし
149 堂・青 東西に ほどこす内に ふく北る 神も佛も 南なりけり 天明2年作
150 皆人は 神と佛の すがたなり なぜに其身を しんぜざりけり
151 だいそくの みにもつもれる じひぼだい たからの山を のぼりとゞけよ
   だいぞく:大俗。僧にたいして俗に住む大衆の意  
享和2年作 四國堂心願鏡、十三人講中
152 あさましや たからとおもふ 金銭を すつる命は たからならずや
153 修羅道を やう〔く〕ぬけし 人間も さとりて見れば 雲の上人
154 つゝつしみは 五行の道の 極意かな ならべてみれば 五かひなりけり
155 人の身の したい不同は 何事ぞ 長者様から 非人乞食
   したい不同:次第不同
156 みな人の 心のぐちは いらぬもの ふじやうけがれと おもへ人々
   ぐち:愚痴  ふじやうけがれ:不浄穢れ
享和2年作・
157 たゝ人を ねたまず 人にねたまれず ねたみそねみは むけんなりけり
   ねたみそねみ:妬み嫉み  「むけん」;無間地獄 
十三人講中
158 むつましく むこもむすめも むりはたゞ むけんと思へ なむあみだ佛 91歳作
159 はずかしや じひもぼだいも しらざれば 又くる春は 非人こつじき
     こつじき:乞食
160 法身の 心のかみは そりもせず けさや衣の まへもはずかし
   かみ:髪、法身;ホツシン、ホウシン、僧侶の身
161 笠をきて したのなさけを みる人は 又くる春は 人のつかさぞ
162 笠きても したのなさけを しらざれば 又くるはるは いぬか馬うし
163 三界を のそひてみれば あめがした ぬれた姿は みじめなりけり
164 たのしみの ゑよふゑひぐわに のぼりつめ くだり坂には みじめなりけり
165 樂をして すゑにみじめと しらざれば くだり坂には かなわざりけり
166 ゆめの世を ゆめでくらして ゆだんして ろせんをみれば たった六文
167 くるしみも 悟りてみれば たのしみぞ くるはる〔く〕の たそくなりけり
168 年内は 八斗のもちを 四斗ついて かくしてくろふ もちのうまさよ
169 いつまでも おる娑婆なれば よけれども 今にも行ば 捨る寶ぞ
170 ものしりは いろ〔く〕さつたの ごたくかな ひとつもわれは わからざりけり
171 彌だしやかに みなだまされし 念佛を くらひすごして しよくたひをする
172 懺悔 はか所まで ないつわろふつ おくられて それよりさきは ひとりたびじぞ
173 懺悔 みな人の ゆかねばならぬ 關もりに ぬけみちもなき ゑんま大王
174 しでの山 つるぎの山は こへもせよ さんずの川は こすもこされじ
175 このつちは おこるあたまを ひとうちよ いけんはいらぬ これがちかみち 88歳作
176 ゆだんして あさきゆめみし しゃれかうべ しるしの塚に とうば一本
177 おとゝしも ことしもおなじ 年の暮 のんずくろふつ 二一てんさく
178 ろうそくの あし本みへぬ おふみそか 心のやみに てうちんはなし
179 うそをつき うかり〔く〕と うろたゆる うそがかふじて うかむせもなし
180 あさましや 理も非もしらぬ ぐちとぐち にてもやいても くわれざりけり
181 ぐちむらも おしやつんぼに さもにたり 事もわからず やみぢ成けり
182 長談義 へたり〔く〕と 長座かな いびきをかいて 居ねむりぞする
183 銭とりと めしくふ事は たつしやなり しごとをみれば よわい事かな
184 にが〔く〕し 二せあんらくで でたれども 二せもだましも くわぬ世の中
185 おりかみも うそ八百で だまされし よく〔く〕みれば たゞのから紙
186 前の世に かしたるものを とるならば 利足をそゑて とれよ盗人
187 たびをして 衆生のめしを くひつくせ ほとけが鬼に なるはじやうせき
188 法をきゝ こそ〔く〕にぐる 同行は 法ぬす人の 姿なりけり
189 たばこやは のみとしらみに さもにたり よりくる人に ひねりまわされ
190 そば切や いかなる人の ながれぞや より来る人の 九ぜん十ぜん
191 いつまでか はてのしれざる たびのそら いずくのたれと とふ人もなし
192 たぎのそら うひもつらひも わが心 悟りにまさる 修行なりけり
193 ひはくるゝ 山たにこすも なにやらむ あめ風ふゞき しのぐつらさよ
194 しやばにきて こきやうの道を うちわすれ 和尚も人に 道をたずぬる
195 迷ふたり 里も見へざる 片田舎 ことわからじと 思ふわがぐち
196 のじゆくとも おもはず こゝにまよひきて はらにみはなし やねはなほなし
197 一宿を 願ふてみても 庄屋さま はつと〔く〕で 一石六斗
198 一宿を ねごふてみれば はつとくと 住持の心 やみじなりけり
199 行暮て はつとのてらに こひければ おしやうの心 やみじなりけり
200 ちややにきて 道をとふても とりあはず なひぎのつらは 二八けんどん
201 木喰も 道にはまよふ はらはへる こよひはこゝに からのだんじき 88歳作
202 帆をあげて 浪のり舟の おともよき 辰巳に卯くる としは松前
203 天明や あくれば すぐに天か下 海山里は 和合なりけり
204 四とし経て きやう立そむる 佐渡島を いつ来て見るや のりのともし火
205 きゝつとふ むかしのなると きてみれば ならぬをなると いまにゆふ哉
206 朝日さす その日に向ふ 國分寺 國安のんを 守れ五智山
207 から〔く〕と 笑ふて入るも たから舟 なさけの下に 見ゆる長崎
208 長たびや ながとの國で たづぬれば まだ行さきも なかとなりけり
209 木喰も よみへのぼるに しものせき とうりて行も ぶてうほうかな 
210 木喰の かたみの姿 なかむれば 人の心も ひろたにの里
211 木喰に 皆だまされて 北かわち 行ももとるも 一つはし〔く〕
212 きてみれば むかしもいまも はぎの花 ふだんにさかば 極らくのてひ
213 木喰も むひつのくせに にじりがき はづかしいとも 思わざりけり
214 木喰は 書物はよめず 字は書けず いつも耻辱を はじのかきやり
215 木喰の ぜんあくゆふは しやばの風 ゆふ人みれば 佛なりけり
216 木喰の 心のうちを たづぬれば 皆からにして 一文なし
217 木喰も 悟りのまねか あほうもの よく〔く〕みれば ばかのこんげん
218 木喰の 姿はわづか 五りんかな 心の内は 五もふなりけり
219 わがこゝろ よく〔く〕みても わかこゝろ ばかであほふで こけのさる松
220 木喰も ぬすみだませし 佛法の 修行の道に かなはざりけり 
221 木喰の はだかのすがた なかむれば のみやしらみの ゑじきなりけり
222 木喰の けさも衣も むしろこも きたりしいたり ねたりおきたり 
223 木喰も いずこのはてか 行きだおれ いぬかからすの ゑじきなりけり 88歳作
224 未来まで とゞかずとても わが心 すこしはのちの たそくなりけり
225 木喰も 悟りてみれば されかうべ よく〔く〕みれば もとの土くれ 91歳作
226 木喰の 姿かたちを ながむれば さながらいねの かゞしなりけり 91歳作
227 木喰も そばのこどもに だまされて まだもうきよに うろたへておる 寛政11年作
228 木喰も 衆生のめしが くひたらて 又出てくゑば はらもぼてれむ 89歳作
229 木喰の 身ははちぼくや あけのはる おもしろそふな ぎょけいなりけり 文化2年正月・米寿自画像
230 木喰の 衆生さいとの 一念は 身のこんなんも いとはざりけり 88歳作
231 木喰も よをあはれみし 心こそ みのこんなんも いとはさりけり 91歳作
232 わが心 一度にひらく 白蓮花 常と無常は ゆふにゆはれず
233 木喰の 心にひらく 白蓮花 われより外に たれかしるべき 91歳作
234 木喰に みなだまされて きてみれば 佛法僧の浄土なりけり 88歳作
235 木喰に みなだまされて たもとから 一文ぜにを ばらり〔く〕と 91歳作
236 木喰も 十宗八宗の ごちそふで 法やうじるも わからざりけり
237 木喰の 心にかくる 九條げさ ひろげてみれば こくふ法かい
238 我が心 心の姿 なかむれば 悟りににたる 心なりけり
239 木喰も めひどのたびに つれもなし もどりてみれば とふば一本
240 木喰も 悟りてみれば なまざとり にゑたもあれば にゑぬのもあり
241 木喰の 悟る心は ごくふかい どこがどふとも わからざりけり
242 木喰も 三平等に 座すときは 唯一念の 一字なりけり
243 木喰の 心のうちを たつぬれば われよりほかに しる人もなし
244 木喰も むかしといまの わがこゝろ ならべてみれば 月とすっぽん 91歳作
245 海水の 願作佛心 成就して こんご浄土の ちかひたのもし
246 木喰の かたみのふでも なむあみだ かえす〔ぐ〕も なむあみだ佛 89歳作
247 東西や 南に北る 福寿草 佐渡時代
248 南無阿弥陀 ひもじくもなし 年の暮 佐渡時代
249 目出たひを おさへてのむや わかゑびす
250 福は内 まめで納むる 年の暮 79歳作
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木喰上人の年譜 
木喰上人に関する明治以降の研究史
「木喰上人作木彫佛」画集本の世界を訪ねて
木喰上人作、丸畑四國堂八十八躰佛の行方 
随筆、「木食上人

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